ほのえりは世界を救う

答えは得た――高坂絵里

(随時更新)【ラブライブSSへっぽこ実験室】スレイμ's 一話の二

 ひょっこりと現れて盗賊退治を手伝ってくださった彼女、コーサカさんとの出会いは三日前に遡ります。

 あの時は中々大変でした。少し思い出してみましょう――

 

 

 大分急いで歩いたおかげで、日が暮れる前に何とか次の街に到着できそうですね。宿がいっぱいでなければよいのですが。野宿は余り長く続けるものではありませんし、お風呂にもたまには入りたいものです。

 ……いえ、決して不潔なわけではありませんよ。川で水を浴びたり、浄化の魔術できちんと体は浄めています。大丈夫です。

 だとよいのですが。

 確認してもらえる人がいないのは不便ですね……。今晩は念入りに綺麗にしましょう。

 

 そんなことを考えていれば、街が見えてきました。初めて訪れる街です。アキバ・シティに比べれば規模はかなり小さいものの、しっかりした壁で囲まれているのが見えますし、中も期待してよさそうです。いざ、三日ぶりの温かいお風呂へ。

 ……臭っていないとよいのですが。

 

「妙ですね」

 

 特に問題なく取ることのできた宿屋さんの食堂で、晩ご飯をいただきながら考えます。あ、この鶏の照り焼きは中々美味しいですね。タレに秘訣があるのなら教えていただきたいところです。営業秘密でしょうけれど。

 失礼。

 妙です。

 何が妙かと言いますと、この街全体が悲愴感に包まれているのです。

 街に入る門で見張りをする衛兵達はやけに緊張しており、挨拶をしたところ『途中で盗賊を見かけなかったか?』等と聞いてきました。

 見かけていたら無事にたどり着いていないのではないでしょうか?

 未来の襲撃に備えるのなら防備を整えれば良いでしょうに、街の中にはそういう雰囲気が見受けられません。

 となると、既にこの街が襲撃を受けた、と考えるのが妥当でしょう。

 しかし、それだけではこの充満する悲愴感は説明できません。そして【宿屋の客が私以外にいない】ことの理由にもなりません。

 さらに言うと、先程から宿の御主人と女将さんがこちらを不安げにちらちら何度も見てくるのが――

 

「御馳走様でした」

 

 ーー流石に気になりますので主人に確認させていただきましょう。身の安全に関わることかもしれませんので。

 

「すみません。少々伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「あ、あぁ……」

「この街で、ここ数日に何か事件などありましたでしょうか?」

「い……、いやいやいや。そんな特に変わったことはないさ。なぁ、お前」

「え、えぇ。いつもこんな感じで陰気なのよこの街。気を悪くしたらごめんねぇ」

「そうですか」

 

 私の返答に安堵する二人。

 この二人から、悪意は感じられませんね。ということは、このまま会話を流してしまえばお互いに幸せということなのでしょう。事実を隠されていても私には害がない……

 

「申し訳ありません、質問を間違えました」

「へ?」

「単刀直入に聞きます。この街はここ数日の間に盗賊に襲撃された、間違いありませんね?」

 

 流しません。

 近辺で盗賊の集団が活動しているというならその事実をしっかり確認しておかねばなりません。道中、不意に遭遇することは避けたいものです。そのためにも確認は重要なのです。

 ……いえ、これは言い訳です。

 この街の状況次第では何か手伝えればと思っている私がいます。街にとって重要な物が奪われていたなどでしたら、何か私にできることがないか無い知恵を絞るのも悪くはありません。幸い一仕事終えて、今は時間に余裕がありますから。

 

「「……」」

「答えにくいのでしたら、そのままで結構です。こちらで推測を申し上げます。その際、街にとって大切な何かが奪われたのではないのでしょうか? そして、それは外の人に口外しづらいもの」

「……そこまで分かってるなら、頼むから聞いてくださんな」

「失礼しました。ところでここの庁舎はどちらにありますか?」

「まさかあんた」

「まだ、残っている方もいらっしゃるでしょうから、事情を聞きに行こうかと」

「だめだ、それだけは――」

「あんた、もうこの子に隠しておけないよ」

「しかしだな……」

「元はと言えばあんたが悪いんだよ」

 

 先に女将さんの方が折れましたか。申し訳なく思いますが、話は聞かせてもらいましょう。

 

「先に一つだけ聞いてもいい? あなた、仕事は何やってるの?」

「はぁ……」

 

 女将さんの謎の質問。それと現状とに何の関係があるのでしょう? 特定の職業の方が狙われているとか、そんなことはそうそう無いと思いますが。

 

「えっと……学者の端くれと言いますか、手伝いじみたことをやっています……が」

「へぇ、若そうなのに大したもんだ」

「そんな、大したものではありません」

「学者さんなら、まあ、『あんな無茶』はやらないだろうから……」

 

 そう前置きして女将さんが話してくださった内容は。

 

「なんて無茶なことを……! 急いで助けないと!」

 

 私を動かすのに十分な内容でした。